模写/複写/抽象化

模写はひとつの連続したパターンを分析し再現する試みであり、そのいずれの過程においても画家は何らかの不連続性の介入を排除することができない。つまり原画を絵画として成り立たせている筆触の構造を本来の時間軸に沿って分解し、まったく同じ段階を経て完全に同じパターンを復元することは絶対にできない。(この構造を問題とせずブラックボックスとして処理する再現の手段は写真である。模写には構造の理解が必要だ。)画家は、そのパターンのいくつかの部分だけを認識し、それらを再現するために別の段階を経て別のパターンを作る結果になる。そこに生じやすいずれは、原画で対象の特徴を描写していた筆触が有機的な連関を失い、具体的な叙述の機能を低下させるということであろう。この意味で模写が一般にもたらすのは抽象化であるといってよい。

『湯女図』 佐藤康宏